2018年に発覚した「医学部不正入試問題」をご存じの人も多いと思います。
日本の複数の大学が、女性の得点を一律減点して、合格できている女性が、医学部の男性を増やすために、不合格とされていた問題です。
他にも浪人生を不利に扱う、特定の受験生を優遇する。等の不正がありました。

その当時は職場でも、男女雇用機会均等法等の行政の働きかけもあり、男性優位、女性蔑視という風潮は希薄になっている。と思っていたので、本当に驚きでした。
今回ご紹介する本は、2018年の「医学部不正入試問題」が背景のストーリー展開と男性優位の医療現場に従事する女性医師たちの物語で、南杏子さんの「ブラックウェルに憧れて」です。
「ブラックウェル」とは、世界で初めて医師として認められた女性で、現代に続く女性医師の未来を切り開いた女性です。
「ブラックウェルに憧れて」は、現役女性医師の南杏子さんが、過酷な医療現場で働く5人の女性医師を描いた物語です。
過酷な医療現場で、さらに医学部不正入試が起こるような男性優位の職場で働く4人の物語は、胸を締め付けられるほど苦しく、それでも前向きになろうとするひたむきな彼女達の姿に感動します。

職場での女性差別が少なくなっているとはいえ、諸外国と比較すると女性が活躍するのが難しい現実があると思います。
南杏子さんの「ブラックウェルに憧れて」は、職場で女性差別を感じている人に共感出来る作品です。
南杏子さんのご紹介
南杏子さんの経歴は、本当に驚きます。
ご自分が33才、子供が2才の時に一念発起して、東海大学医学部に入学し、子育てしながら医師を目指して勉強されます。
卒業後は、大学病院の内科に勤務、その後スイスの医療現場を経験し、今は日本で終末医療の内科医として活躍されています。
そして、2016年ご自分が55才の時に医師としての経験等を題材にした「サイレント・ブレス」で作家デビューされます。
一児の母であり、現役の医師、そして作家という多岐にわたって活躍する素晴らしい人です。
多岐にわたって活躍する南杏子さんの作品は、その見識の深さから描かれるストーリーと、女性らしい優しい表現の作品なので、とても読みやすく、読んでいると時を忘れます。
今回ご紹介する本
本のあらすじ
2018年8月に医学部不正入試が発覚し、その事件を背景に5人の女性医師の物語が始まります。
- 解剖学教室教授の城之内泰子さん
- 解剖学の教室で同じ班になった長谷川仁美さん、坂東早紀さん、椎名涼子さん、安蘭恵子さんの5人です。
男性優位の伏魔殿のような医療現場での苦悩や家庭との両立の難しさ等、5人の女性医師の人生が垣間見えます。
そんな過酷な人生でも、一人一人の未来に希望も見えますが、物語の結末には信じられない秘められた真実が待っています。
プロローグ:求められた証言
第1章:四人の再会
第2章:アイスペシャリスト、仁美
第3章:フリーランス、早紀
第4章:エスコート・ドクター、涼子
第5章:NICUチーフ、恵子
第6章:解剖学教室教授、城之内泰子
エピローグ:それぞれの宙返り
解剖学の教室で同じ班になった女性は、みんな医学部を卒業してから20年近くが経っていて40歳くらいなので、医療現場では中堅、プライベートでは人生の岐路と感じる年齢です。そんなシチュエーションの女性医師の4人の今が語られます。
- 優秀な眼科医の仁美さんは、女性差別が続く職場のため力量はあるのに認めてもらえない環境に苦悩します。
- シングルマザーで痴呆症の父親を看護しながら健康診断医を続ける早紀さんは、生きづらさを感じて苦しみます。
- 救急医療の現場で働く涼子さんは、病院経営の効率化のために長年従事していた救急医療の現場が無くなり、先行きに不安を感じます。
- 新生児病室で働く恵子さんは、少人数で従事する過酷な環境と家庭との両立で、自分自身の体調に異変を感じます。
- 最後に解剖学教室の教授の城之内さんが、定年退職で病院を去る時に、今まで隠していた意外な真実を語ります。

どのストーリーも胸を締め付けられるほどの苦しい現実が語られます。でも、最後のエピローグで宙返りして人生を好転させようとする行動に感動しました。
まとめ
医療現場で働く女性医師のドキュメンタリー作品であり、秘められた真実に向かう巧みなストーリー展開が楽しめる素晴らしい小説です。
南杏子さんご自身も女性医師なので、その経験から語られるストーリーは、描写がリアルで医療現場のことが本当に良くわかります。また、それ以上に感じるのが「職場の女性差別の現実」です。
医学部不正入試もそうですが、病院という組織そのものの体質が古く、女性が活躍出来ないことが良くわかりました。同じように職場に女性差別を感じている人は、共感出来ることが多いと思います。

現役女性医師の南杏子さんが描く、過酷な医療現場で働く5人の女性医師を描いた物語を是非とも読んで欲しいと思います。
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