
沢山の本を読んで思ったのは、穏やかな人生の終焉は、穏やかな死をゴールにしたいということです。これから先に何が起こるかは、一つのことを除いて誰もわかりません。わかっているのは「いつか死ぬ」ということです。
今回ご紹介する本は、死に向かっている患者の終末期医療をテーマにした小説です。
「南杏子さん」の「サイレントブレス、看取りのカルテ」は、終末期医療をテーマにした小説で、フィクションの作品です。
著者の南杏子さんは、現役のお医者さんなので、その医療経験から描かれる短編連作小説のサイレントブレスは、病気の描写がリアルで、その家族の心理描写もリアルです。
死を迎える患者さんの身を切られるような思い、家族の死を受け入れる時の胸をかきむしられるような思い、そして終末期の医療に携わるお医者さんの悶々とした思いが、伝わってきます。

いつか訪れる死を真剣に考える機会になれる作品です。
終末期医療をテーマにした物語、南杏子さんの「サイレントブレス」を読んだ感想をご紹介します。
南杏子さんのご紹介
南杏子さんの経歴は、本当に驚きます。
ご自分が33才、子供が2才の時に一念発起して、東海大学医学部に入学し、子育てしながら医師を目指して勉強されます。
卒業後は、大学病院の内科に勤務、その後スイスの医療現場を経験し、今は日本で終末医療の内科医として活躍されています。
そして、2016年ご自分が55才の時に医師としての経験等を題材にした「サイレント・ブレス」で作家デビューされます。
一児の母であり、現役の医師、そして作家という多岐にわたって活躍する素晴らしい人です。
多岐にわたって活躍する南杏子さんの作品は、その見識の深さから描かれるストーリーと、女性らしい優しい表現の作品なので、とても読みやすく、読んでいると時を忘れます。
今回ご紹介する本
本のあらすじ
主人公の水戸倫子さんは、大学病院で働いていましたが、系列の在宅診療を専門で行う病院へ異動を言い渡されます。
在宅で患者さんの最後を看取る在宅診療にとまどいながらも、懸命に患者さんに向き合います。
- 末期の乳癌で、抗がん剤治療などを拒否して、自宅で最期を迎えようとする女性
- 小さい時に筋ジストロフィーを発症して、自宅で寝たきりの青年
- 自宅で子供に看取られながら、静かに死を迎えようとする女性、等
倫子さんが、在宅診療で訪問した6人の患者さんの物語が編集されている短編連作小説です。

医療現場のドキュメンタリー作品ではなく、患者さんの人生にも物語があって、倫子さんと特別な関係のある患者さんもいる、奥深いストリーとわかりやすいストーリー展開の作品です。
本を読んだ感想
サイレントブレスとは、静けさに満ちた日常の中で、穏やかな終末期を迎えることをイメージする言葉です。
「サイレント・ブレス 看取りのカルテ」幻冬舎文庫
というプロローグから始まります。
病気を治す、癌を克服する医療もありますが、サイレントブレスは、「病気を治せない患者」に寄り添い穏やかな終焉を迎えるための手助けをする医療を描いた作品です。
現代の医療技術は、癌も克服できる病気になってきていると思いますので、癌を克服するために辛い手術や治療に身を投じることもあると思います。
でも、どこかに線を引いて、自分の人生のゴールを、自分で決めることも大事なことだと感じました。
自分の人生のゴールを幸せなゴールにすることが、穏やかな人生の終焉にはふさわしいと改めて気付きました。

南杏子さんの本を読むのは2冊目ですが、サイレントブレスも素晴らしい作品でした。
まとめ
サイレントブレスは、終末期医療を描いた物語なので、今、病気で大変な治療をしている人から見たら、残酷だと思われるかも知れません。
今、家族に病気で苦しんでいる人がいる人からも、不謹慎だと思われるかも知れません。
でも、本書を読むと「病気の苦しさ」「死への恐怖」だけではない、穏やかな気持ちになれるような感慨深い印象を感じます。
多くの人の死を看取ってきた南杏子さんが描く物語は、人生のゴールの時に受けたい医療を教えてくれます。

穏やかな人生のゴールにふさわしい、穏やかな死を考えるきっかけになる作品です。
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