「病気やケガをしたら病院に行く。」という「入院医療」と「通院治療」が普通だったと思います。でも、今は「在宅医療」が第3の医療として注目を浴びています。
「在宅医療」は、自宅で生活しながら、医師や看護師が自宅に訪問してくれて、病気などの療養やリハビリなどを行っていただける医療サービスです。
患者になった時「わが家に帰って、家族と一緒にいたい」、家族が病気なった時「いつもそばで見守ってあげたい」ときっと考えると思います。
そんな患者や家族の思いを叶えるのが、「在宅医療」だと思います。
今回ご紹介する本は、南杏子さんの「いのちの停車場」です。
南杏子さんは、女子大を卒業後、編集者として働いていましたが、その後結婚し、子どもを出産した後、33歳で医学部に編入し、医師になった異色の経歴をお持ちです。
現役医師で作家さんの南杏子さんが描く「在宅医療」をテーマにした物語が、「いのちの停車場」です。
老老介護の現実、四肢麻痺になったIT社長の再生医療、小児癌の少女など、死という現実を受け入れる時の切なさと、どんな状況になっても家族を見守る献身が胸を打つ、感動の医療小説です。
現役医師から見た医療現場のリアルに、南杏子さんの現在医療へのメッセージが反映した物語は、将来の医療に興味のある人の参考になると思います。

父親から積極的安楽死を強く望まれた主人公の女性医師の葛藤の物語からは、南杏子さんの終末期医療に対するメッセージを強く感じました。
南杏子さんのご紹介
南杏子さんの経歴は、本当に驚きます。
ご自分が33才、子供が2才の時に一念発起して、東海大学医学部に入学し、子育てしながら医師を目指して勉強されます。
卒業後は、大学病院の内科に勤務、その後スイスの医療現場を経験し、今は日本で終末医療の内科医として活躍されています。
そして、2016年ご自分が55才の時に医師としての経験等を題材にした「サイレント・ブレス」で作家デビューされます。
一児の母であり、現役の医師、そして作家という多岐にわたって活躍する素晴らしい人です。
多岐にわたって活躍する南杏子さんの作品は、その見識の深さから描かれるストーリーと、女性らしい優しい表現の作品なので、とても読みやすく、読んでいると時を忘れます。
今回ご紹介する本
本の内容と感想
東京の救命救急センターで副センター長を務めていた62歳の女性医師「白石咲和子さん」ですが、ある日の夜間当番で発生したミスの責任をとって、退職して父親が一人で暮らす金沢の実家に戻ります。
金沢の「まほろば診療所」では、院長の仙川先生が骨折したため代理の先生を探していたため、帰ってきた咲和子さんが訪問診療医として従事することになりました。
慣れない「在宅医療」の現場で、戸惑いながらも「命を守る」そして「命をおくる」医療を献身的に行います。
第1章、スケッチブックの道しるべ
老老介護の現場の話です。パーキンソン病を患った奥さんを自宅で介護するご主人の家に訪問診療を行います。奥さんの命をおくるご主人に、スケッチブックを使って死への道標を教えます。
第2章、フォワードの挑戦
IT企業の社長がラグビーの試合で、頸椎を損傷し四肢麻痺状態になってしまいます。大手の病院のリハビリが効果ないため、咲和子さんに訪問診療を依頼します。その訪問診療は、再生医療で完治を目指すものでした。
第3章、ゴミ屋敷のオアシス
ゴミ屋敷に一人で暮らしている女性宅に訪問診療することになります。その女性は、お風呂が大好きな高齢の女性ですが、家の中はゴミ屋敷というセルフ・ネグレクトなのか、判断がつかない女性でした。
第4章、プラレールの日々
末期癌で在宅医療を希望する元官僚を訪問診療することになります。気丈な奥さんの献身的な介護と咲和子さんの訪問診療で穏やかに命を全うしようとしますが、食事をあまり食べられなくなったご主人に、どう対応したら良いかわからない奥さんがストレスで体調をくずしてしまいます。そこで、咲和子さんは奥さんにレスパイト・ケアを行います。
第5章、人魚の願い
小児癌で3回目の抗がん剤治療でも効果がなかった6歳の女の子を訪問診療することになります。現実を受け入れられない両親に娘さんの命をおくることを教えます。そして、娘さんの最後の夢を叶えるための、咲和子さん達は奔走します。
第6章、父の決心
大腿骨骨折から入院し、誤飲性肺炎と脳梗塞を併発した結果、体中の痛みに苦しむようになった父親から積極的安楽死を強く希望されます。
父親を苦しみから開放するためには、自殺幇助の罪を侵す必要があり、咲和子さんは苦悩します。そして、最後の決断を実行します。
第3の診療として注目を集める「在宅医療」をベテランの医師が献身的に行っている姿から、リアルな医療現場の実態が伝わってきます。命を全うしようとするもの患者、命を穏やかにおくってあげようとする家族の姿に切なさと感動があります。
そして、最後の物語の娘として医師として父親と対峙する姿に現在の医療の課題と将来への希望を感じました。

小児癌の子どもが夢を叶えた時の一言は、胸が張り裂けそうになりました。
まとめ
南杏子さんの「いのちの停車場」をご紹介しています。
現役医師で作家さんの南杏子さんが描く「在宅医療」をテーマにした物語です。現役医師から見た医療現場のリアルに、南杏子さんの現在医療へのメッセージが反映した物語は、将来の医療に興味のある人の参考になると思います。そして、娘として医師として父親と対峙する姿に現在の医療の課題と将来への希望を感じる作品です。
また、吉永小百合さん主演で映画にもなっていますので、本が先か映画が先かは好みだと思いますが、どちらも楽しめると思います。
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