「感情労働」という言葉をご存じですか。
感情労働は、自分の感情をコントロールして、相手の期待に応えて報酬を得る労働のことだそうです。
ときには理不尽なクレームに対しても自分の感情を抑えて、我慢強く対応しないといけない大変な労働です。
患者さんのケアをする看護師さんも、感情が労働の大きな要素になっていますので、「感情労働」と言えると思います。
今回ご紹介する本は、南杏子さんの「ヴァイタル・サイン」です。
南杏子さんは、現役の女性医師で医療現場に従事している経験から今までも多数の医療小説を発刊しておられます。
今回の「ヴァイタル・サイン」も南杏子さんの経験から描かれた医療小説で、中堅の女性看護師が主人公の物語です。
過酷な医療現場で、さらにモンスター患者や理不尽な申し出をする身内に翻弄されながらも、懸命に働く姿が描かれています。
看護師の過酷な苦しみが伝わってくる作品で、切ないストーリーなのに、どんどん読み進めてしまう感動の医療小説です。
女性に読んでいただくと、共感出来ることも多いと思いますし、看護師さんや看護師を目指している人にも共感出来ることが沢山あると思います。

「感情労働」という言葉もこの本で知りました。南さんの作品は、医療現場で従事している人に光をあてる素晴らしい作品です。
南杏子さんのご紹介
南杏子さんの経歴は、本当に驚きます。
ご自分が33才、子供が2才の時に一念発起して、東海大学医学部に入学し、子育てしながら医師を目指して勉強されます。
卒業後は、大学病院の内科に勤務、その後スイスの医療現場を経験し、今は日本で終末医療の内科医として活躍されています。
そして、2016年ご自分が55才の時に医師としての経験等を題材にした「サイレント・ブレス」で作家デビューされます。
一児の母であり、現役の医師、そして作家という多岐にわたって活躍する素晴らしい人です。
多岐にわたって活躍する南杏子さんの作品は、その見識の深さから描かれるストーリーと、女性らしい優しい表現の作品なので、とても読みやすく、読んでいると時を忘れます。
今回ご紹介する本
本のあらすじ
比較的富裕層の患者が多い病院で働く「堤素野子さん」が主人公です。
高齢者の入院が多いため、死亡退院の比率が高いという厳しい現実はありますが、堤素野子さんは、人生の終末期を生き生きと過ごせるよう、患者のために尽くすことを大切にした素晴らしい看護師です。
そして、新人教育をする中堅の看護師で、療養病棟全体の状況にも気を配りながら、自分のスキルアップにも挑戦しようとする意欲ある人です。
私生活では、2歳年下の同じ医療関係の彼氏もいて、忙しい中でも幸せな日常を送っていました。
本当に素晴らしい看護師で、好感を持てる堤素野子さんでしたが、少しずつ歯車が噛み合わなくなり、医療の現場でも私生活でも精神的に追い込まれていきます。
過酷な医療現場でさらに苦しさがましていく環境に、押しつぶされそうになりながら、毎日を生きていく姿が描かれています。
一生懸命に生きているのに、真面目にがんばっているのに、誠実に患者さんに向き合っているのに、問題ばかり起こってしまい、いつも睡眠不足に悩まされ、精神的に追い込まれていきます。

そんな堤素野子さんの姿から、看護師さんの苦しさが生々しいまでに伝わってくる作品です。
本を読んだ感想
南杏子さんの作品は、今までの作品もそうですが、医療現場の過酷な状況が生々しく描かれています。
「ヴァイタル・サイン」も主人公の苦しみが伝わってきて、読んでいると自分の胸もかきむしられるような気持ちになります。
思うように進まない患者の看護に苦悩する堤素野子さんへ、周りの人も余裕がなく誰も手を貸すことが出来ない過酷な医療現場に、暗然とした思いになります。
それでも読み終わると感動する医療従事者へのエールのような作品です。
まとめ
ヴァイタル・サインとは、みんな1度は経験があると思いますが、「体温、血圧、脈拍、呼吸等の患者の状態を洞察する」ことだそうです。
看護師さんは、病院に行くと身近な存在ですが、「療養上の世話」と「診療の補助」が看護師さんの仕事なので、患者さんと医者の間にいる存在で、まさに「感情労働」だと思います。
本作品「ヴァイタル・サイン」は、30代の女性看護師が死と隣り合わせの医療現場で、誠実に一生懸命がんばっている姿をリアルに描いた作品です。
同年代の女性、看護師さんや看護師を目指している人にとって、共感することが多い作品だと思いますので、是非とも読んで欲しいと思います。

南杏子さんの作品は、切ない医療小説ですが、読み終わるとスッキリして感動する作品でもありますので、是非とも沢山の人に読んで欲しいと思います。
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